新1年生の親にこそ知ってほしい!受験で合理的配慮を受けるために
新年度が始まって間もない今、
なぜ受験の話題なのか、というと
それは合理的配慮を受けるための準備は、早ければ早いに越したことがないからです。
受験勉強は子ども自身がすることですが、
受験で合理的配慮を受けるためには、親もその準備をしておく必要があります。
この記事では主に中学生の時から知っておきたい進路を決める際に必要な備えについてまとめます。
~ポイント~ ◎支援や配慮の記録をしっかりと残しておく ◎診断を受けたり発達に関わる医療機関とは関係を切らさない
目次
受験における合理的配慮とは
‣合理的配慮とは
合理的配慮は、障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること(事業者においては対応に努めること)が求められるものです。
重すぎる負担があるときでも、障害のある人に、なぜ負担が重すぎるのかを説明し、別のやり方を提案することも含め、話し合い、理解を得るよう努めることが大切です。内閣府リーフレットより
合理的配慮とは、上述のように定義されています。
*以下は本サイト内でご紹介している、教育現場における合理的配慮についてまとめたページです。
この中でも、受験に焦点を当てた合意的配慮について、文部科学省が以下の資料に掲載しています。
「日本の特別支援教育の状況について」文部科学省 資料3-1-2より
上記資料は特別支援教育に関する総合的な資料となっていて、全75ページから構成されています。
本サイトでは、教育現場や受験における合理的配慮にフォーカスし、この資料を引用しながらご紹介します。
*主に上記資料1~14ページ「合理的配慮の提供」より
教育現場や受験での合理的配慮の具体例
- 聴覚過敏の児童生徒等のために教室の机・椅子の脚に緩衝材を付けて雑音を軽減する、
視覚情報の処理が苦手な児童生徒等のために黒板周りの掲示物等の情報量を減らすなど、
個別の事案ごとに特性に応じて教室環境を変更すること - 子供である障害者又は知的障害、発達障害、言語障害等により言葉だけを聞いて理解することや意思疎通が困難な障害者に対し、絵や写真カード、コミュニケーションボード、タブレット端末等のICT機器の活用、視覚的に伝えるための情報の文字化、質問内容を「はい」又は「いいえ」で端的に答えられるようにすることなどにより意思を確認したり、本人の自己選択・自己決定を支援したりすること
- 読み・書き等に困難のある児童生徒等のために、授業や試験でのタブレット端末等のICT機器使用を許可したり、筆記に代えて口頭試問による学習評価を行ったりすること
- 入学試験や検定試験において、本人・保護者の希望、障害の状況等を踏まえ、別室での受験、試験時間の延長、点字や拡大文字、音声読み上げ機能の使用等を許可すること
このように、児童・生徒が本来の学力を発揮できるようにする配慮、と捉えることができます。
具体的に、受験の際には赤字で示したような合理的配慮を求める権利があるのです。
しかし一方で、このような配慮が、単なる「特別扱い」ではないことを証明する必要があります。
例えば試験時間の延長や、ICT機器の使用などは、一般の受験生にとっても試験を有利に進められる可能性もあります。
そのため、試験を実施する側は、その配慮を不公平なく実施する必要があるのです。
そこで、配慮を受けたい受験生側が、その配慮が「合理的である」と示すための資料を準備する必要が出てくるのです。
受験で合理的配慮を受けるための準備
具体的な申請のための提出書類・資料などは、各自治体によって異なりますが、
発達検査や発達の相談に行った記録、学校での配慮の記録を残しておくことの重要性をお伝えしたいと思います。
例えば
- 障害が認められた時期
- 相談に行った場所、内容など
- 具体的な困難事由
- 子育ての中で行ってきた工夫や配慮
(幼稚園時代、小学校時代などの記録もあればよい) - 学校生活で学校側に求め、得られた支援や配慮
(その支援や配慮の有用性が示せれば尚良い) - など
受験の時に、合理的配慮を求める理由として一番伝わる資料は、赤字で示した
「学校生活で学校側に求め、得られた支援や配慮の記録」これは必須だと思います。
さらには中学校在籍中(もしくは高校在籍中)の3年間の学校側の記録を求められることがあります。
受験を控えて始めて、準備をしていたのでは、とても間に合いません。
そのため、親は子どもの支援や配慮の記録を、どんな形でもいいので取っておくことをお勧めします。
できれば在籍する学校に、将来の受験に備えて1年生の時から記録を残してほしい旨を伝えておくのがベストです。
メモでも日記でも良いので、何か記録が残っていればそれを後からまとめて資料にすることができますし、学校側に提出して、関わってくださった先生方に協力してもらって記録を作成することもできます。
特別支援学級や通級指導教室に在籍していれば、支援の記録は学校に残っているはずですが、通常学級で過ごしてきたお子さんは、特に注意して記録を残しておく必要があります。
例えば教室での座席配置などについて先生にお願いした内容など、受験の時にも求めたい配慮ならなおさらです。
高校受験における合理的配慮ついて
以下は高校入試における合理的配慮の取組例です。
こちらは高校入試に備えて、中学校での定期試験から実践していた合理的配慮の取組例です。
このように、普段の授業や定期試験で、子どもが一番能力を発揮しやすい環境は何かを考え、そのための合理的配慮を学校に求める、という実歴を重ねておくことも重要になってきます。
合理的配慮は、参考リンク「合理的配慮とは」でも載せた通り、学校側にとって過剰な負担となる場合には受けることができません。
現実的に受けることが難しいケースも多く、お願いする親にとっては心の負担が小さくありません。
ですが、合理的配慮を求めたという実歴と、それを求める理由を的確に伝え続けることで、将来的に「受験」という大事な場面で、合理的配慮が得られる可能性が出てきます。
また、学校では難しくても、家庭や学習塾、支援機関で行っているような工夫があれば、それを記録に残しておき、かつその工夫がいかに子どもにとって有用なものであるか、を示すことができればそれも記録になります。
親にとっては日々日常のことなので、当たり前になっている工夫や配慮がたくさんあります。
そのため、それらの配慮を特に意識することなく、「その子に必要な配慮である」ことすら認識できていないこともあります。
記憶から消えてしまう可能性もあります。
なのでちょっと意識して、記録に残しておくクセを付けておくことも大事です。
在籍する学校・クラスによる備えの違い
合理的配慮が必要な子どもが在籍する中学校・クラスには以下の4種類があります。
- 通常学級
- 通級指導教室
- 特別支援学級(知的クラス)
- 特別支援学校
子どもが在籍するクラスによって、受験への備えが少し変わってきます。
‣通常学級に在籍している場合
「受験」すること自体には制度的にはなんら問題がありません。
受験会場で合理的配慮を求めたい場合には、
・支援や合理的配慮の記録を1年時からしっかりと残しておく
・学校側に受験時に合理的配慮を求めたい旨を早めに伝える
(できる限り学校でも定期試験時などに配慮してもらい、履歴を残す)
・受験校に合理的配慮を求める際の手続きについて早めに在籍校と相談する
‣通級指導教室に在籍している場合
「受験」すること自体には制度的にはなんら問題がありません。
受験会場で合理的配慮を求めたい場合には、
・支援や合理的配慮の記録を1年時からしっかりと残しておく
・学校側に受験時に合理的配慮を求めたい旨を早めに伝える
(できる限り学校でも定期試験時などに配慮してもらい、履歴を残す)
・受験校に合理的配慮を求める際の手続きについて早めに在籍校と相談する
通級指導教室が、在籍する学校とは別の学校にある場合には、通級指導教室と普段在籍する学校の双方と話をしておく必要があります。
‣特別支援学級に在籍している場合
特別支援学級に在籍していて、一般高校への受験を考えている場合は、1年生の時から学校にその旨を伝えておく必要があります。
その理由は、
・高校の中には特別支援学級からの受験を(暗に)認めていないところがある
・特別支援学級では通知表での成績が付かず、受験に必要な内申点を得られない可能性がある
ためです。
特別支援学級からの受験を、認めないことは不当な差別になります。
そのため公にはしていなくても、暗に特別支援学級からの受験生を取らない学校もあると言います。
以下は文部科学省からの資料の抜粋ですが、
不当な差別的取り扱いを禁止することは、すべての学校において法的義務となっていますが、合理的配慮の提供については、事業所つまり私立などの学校法人では努力義務にすぎないのです。
*令和3年に法改正され、民間事業所においても合理的配慮の提供が法的義務として位置づけられました!
そのため私立の学校においても合理的配慮をより求めやすくなったということです。
そのため、受験することは制度上できるけれど、現実問題として合格を勝ち取り入学することが困難である学校があるということです。
そのような情報は経験的に蓄積されるものですので、在籍する学校の進路指導の先生と相談を重ねるうちに分かってきます。
それを知らずに受験して、イヤな思いをしなくて済むように、早めに在籍校で相談を重ねておくのが良いと思います。
また、特別支援学級での成績が付かない場合には、仮に受験ができたとしても内申点が付かないため大きなハンデとなったり、受験そのものが高い壁になる可能性があります。
そこで、将来的に一般高校へ受験を考えている場合には、1年生の時からしっかりとそのことを在籍校に伝えておき、学校側にもその心づもりをしておいてもらう必要があります。
例えば、3年生の1年間だけでも通常学級に在籍する、
進学に適した高校、受験できそうな学校について早めに情報を集めておく、
過去に特別支援学級から進学した生徒がいる高校を教えてもらう、
受験に必要な対策や手続きについて備えておく、
など、1年時から学校と意識を共にしておくことが大切なのだそうです。
最近では教育現場における支援教育も充実してきて、特別支援学級からも安心して受験ができる環境が整いつつあります。
ですが受験というのは、すべての生徒にとって大きな課題です。
そのため受験時に合理的配慮を求めるなら、その配慮が合理的であることを証明できる記録を残しておくのが賢明です。
【まとめ】
特別支援学級から高校受験を考えているときにやるべき事
- 通っている学校側と、中学1年生から、受験について話をしておく
- 受験するために必要なことを聞いておく
(通常学級に在籍する必要があるのか、受験時に配慮が受けらるのか、など) - 受験が通常学級からに限定される場合は、中学3年生の1年間だけでも通常学級に在籍することも考える
- 在籍クラスを変更する際(支援学級から通常学級へ、またはその逆も)は、年度単位での変更となるため、変更したい年度より前に決定し申請しなければならない
- 内申点はテストの成績だけではないので、出席日数、提出物、授業態度にも注力する
- 受験時に合理的配慮を受けられるように、学校での支援の記録を1年時から取っておく
‣特別支援学校に在籍している場合
現実的には特別支援学校から、一般高校へ進学することは残念ながら至難の業です。
*特別支援学校に在籍する生徒の進路について詳しくまとめた以下の記事も参考にしてください。
関連ブログ記事
「知的障害をもつ子どもの進路」
~学ぶ場を下さい~
その大きな理由としては、やはり学習スピードが全く違う事と、成績表が一般校とは違うからです。
ですが、絶対に無理というわけではありません。
学校とは別に、学習を続けて、一般高校へ進学した方、専門学校に進学した方も少ないながらにいらっしゃいます。
ここでも在籍する学校側と、進路について早い時期から話をしておくと道が開けると思います。
親子の希望と現実、そして制度的なことなど、学校と二人三脚でその子にとって実りある進路を選ぶという点では、どの学校に在籍していても変わりはないと思います。
特別支援学校に在籍する我が家の娘はまだ小学部ですが、娘の可能性を広げる進路選択をしていきたいと思っています。
大学受験における合理的配慮ついて
まず文部科学省の資料より大学入試センター試験における受験上の配慮について抜粋します。
このように、高校3年生の7月から、既に配慮に関する申請が始まっています。
大学入試センター試験は国が実施する試験なだけに、合理的配慮の申請や相談などの情報オープンで受けやすいものになっています。
ただ、受験に必要な合理的配慮を受けるためにはまだ問題が多いもの現状です。
合理的配慮を得るための申請に、多くの関係者、関係機関との協議が必要で受験生が受験勉強以外にかける時間が必要になってくることや、合理的配慮が認めらるかどうかの決定通知が12月と試験の直前であることなどの制度上の問題から、合理的配慮を提供する側の経験が浅く、配慮が合理的かどうかの判断が難しい、他の受験生との公平性の確保が難しいなどのソフト面の問題がたくさんあるのが現状のようです。
しかしながら、受験時に合理的配慮を得て、合格を勝ち取っている方がいらっしゃるのも事実です。
申請するわたしたちにできることは、
・その配慮が合理的であること
・その配慮が有効であること
を証明するための記録をしっかりと残しておくことです。
また医師からの専門的なアドバイスとしての診断書を正確に書いてもらえるように、診断に関わった医療機関と連携を途切れさせないことです。
まとめ
受験勉強を頑張る子どもが、
受験当日に力を存分に発揮できるようにと願って、
記録をしっかりと残しておくことが親ができる受験への備えと言えるでしょう。
一方で合理的配慮とは、
守られている権利ではありますが、
合理的配慮を受ける当事者にとっても、
それを提供する社会にとってもまだまだ経験値が少ない課題です。
そして受験を控えている子どもたちは、
いずれ社会に出て自分の力で生きていくことになります。
合理的配慮が必要な子どもとは、
言い換えれば、
適切な配慮次第で、本来の力を発揮することができる貴重な未来の社会構成員の一人です。
高校受験、そして大学受験は、
社会に出る前に、適切な合理的配慮を得るためのステップのように思います。
適切な合理的配慮を求めた経験、
得られた経験、
その合理的配慮で自分の力を発揮できた経験。
こんな経験をたくさん積むことで、自信を持って社会に出てほしい。
もちろんその中には得られなくて、
理解されなくて辛い経験も含まれると思いますが、
周りから与えられた環境の中だけで生き辛さを感じるより、
自らの行動で自分の環境を変えようとするバイタリティのようなものがきっと長い人生で味方になってくれると思います。
そして親が我が子を取り巻く環境に働きかけができるのは、
もしかすると大学受験の頃が最後になるかもしれません。
子どもはいずれ成人し、親は老いるからです。
より多くの人が、
より多様な合理的配慮を求めることが、
未来の日本の社会をより良く変えていくと信じて
この記事のまとめにしたいと思います。