障害・福祉

「知的障害者の災害時の避難」

第37回 全国中学生人権作文コンテスト
法務大臣賞を受賞した作文がすごい!

我が家の長男が通う中学校では、
「人権の日」というのが設けられており、
朝学習の時間に全国中学生人権作文コンテストの入賞作品を読む時間があります。

その作品をわたしもいつも読ませてもらっています。

今回紹介されていたのが表題の作品なのですが、
とても印象に残った作品なのでご紹介したいと思います。

「知的障害者の災害時の避難」

愛知県 刈谷市立朝日中学校 1年 石川 叡(いしかわ さとし)

僕の弟は,自閉症という生まれつきの知的障害を持っています。上手にしゃべ
ることが出来ないので,時々何を伝えようとしているのか分かってあげられず,
文字や得意な絵で教えてもらったりすることもあります。生まれたときから一緒
に生活しているので,家の中での普段の生活は,少し精神的に不安定になったり
しても,慌てることはありません。とても素直な弟だと思っています。しかし,
外へ出るときは少し気を遣います。言葉ではない声が出てしまったりして,周り
の人を振り向かせるようなことがあるからです。いつも僕は,急に走り出したり
しないように,しっかり手をつないで歩きます。色々な物を触りたがるので,手
をつないでいない方の手の動きも気にしながら気を付けて歩いています。だから,
たくさんの人が集まる場所に行くのは,僕も,家族もちょっと苦手です。
最近,学校で災害への備えという勉強をしました。僕たち家族は近くの小学校
が避難所になっています。もし,災害が発生したとき,自分の家族は避難所でう
まく暮らせるか,実はとても心配になっています。

そこで,災害のときに自閉症の子を持つ家族はどうしているのかをインターネ
ットで調べてみました。

「自閉症・災害・避難」のキーワードを入れて検索して
みると,そこにはやはり,僕が心配していたことが現実に起こっていました。
「自閉症の子どもをもつ家族の孤立」です。阪神・淡路大震災でも,新潟県中越
地震でも,東日本大震災でも,最近の熊本地震でも,みんな避難所に行けていま
せんでした。何となく予想はしていましたが,あまりにも事例が多くてびっくり
してしまい,僕はとても悲しくなりました。

東日本大震災の時,福島県の原発の近くに住んでいた重度の自閉症の子どもの
家族は,近くに避難所ができたのは知っていたそうですが,子どもが環境の変化
や人混みに敏感に反応し,パニックを起こすことがあるという理由で避難所に行
くのは遠慮していました。救援物資は,入ることができない避難所止まりなので,
自宅にある少量の食料で家族四人食いつなぎ,てんかんの発作を抑えている薬が
切れることにおびえながら過ごす日々だったそうです。他にも,やはり避難所に
行けず,車の中で過ごした家族や,買い物に行きたくても障害がある子を一人に
して外出できなくて困った人がいたそうです。避難所の配給も,長い時間並ぶこ
とができなくて大変だったようです。

なぜ避難所に行けなかったのかは,共通していました。「寝ている人がいるか
ら静かにする」という共同生活の「暗黙の了解」が大きな壁になっていたという
ことでした。パニック状態になって大騒ぎする可能性もあるため「迷惑をかける」
と悩んで,避難所に入れなかったのです。家族の気持ちはとてもよくわかります。
僕の家族もそうするしかないのかもしれません。でも,それでは悲しいし,いけ
ない気がします。

災害の経験をした家族の声が集まって,福祉避難所というものを準備しようと
いう動きがあるようです。母に聞くと,僕の住んでいる市でも,準備はあるそう
です。しかし,市内の障害者の家族の人数に対して,収容できる人数が極端に少
ないので,まずは地元の避難所に行って下さいと言われているそうです。地元の
避難所に行きにくいから福祉避難所があるはずなのに,何か変な気がしました。
でも,その福祉避難所は遠いし,大きな川を渡らないといけないので,車が使え
なかったり,川が増水したりしたら,孤立してしまうなと困ってしまいました。

不安を解決できないかと調べたのに,どんどん不安になってしまいましたが,
僕なりに解決策を考えました。それは,地元の避難所の一部に,福祉避難室みた
いな部屋を作ってもらうことです。そうすれば,安心して避難できる気がします。
でも,狭い避難所空間でそれを許してもらえるかは不安です。避難所では,普通
の人でも不安がいっぱいで,気持ちに余裕がないと思うからです。その中で自閉
症の子どもの行動が,わがままではなくて,障害の特性なんだよと知ってもらう
のは大変なことだと思います。

災害が起きてから僕の弟のことを理解してもらおうと思っても難しいと思いま
す。だから,普段から弟のことを地域の人にもっと知ってもらう必要があるなと
思いました。弟は別にかわいそうではないし,楽しく生きているし,僕より出来
ることもたくさんあります。

これからは,自閉症という障害について,もっと周りの人に知ってもらえたら
いいなと思います。そして,僕の家族は地域の人たちに障害をもつ子がいること
をもっと発信していく必要があるなと思いました。少し工夫をし合えば,障害者
も地域で安心して暮らしていけるのではないかなと思いました。

法務省 第37回全国中学生人権作文コンテスト入賞作文集
元PDFファイル

作文の主旨ももちろん素晴らしいのですが、
個人的に強く惹かれたのは、
中学1年生のお兄ちゃんである作者が、自閉症を持つ弟さんに寄せる愛情があふれ出ているところです。

そして「障害」を理解する視点も冷静で、
過大評価も過小評価もしない、ただありのままを尊厳とともに受け止めている。

これはなかなかできるものではありません。

家族と言っても、家族だからこそ、
障害を否定したくなる感情は常に背後に隠れていて、
時にその感情にのまれそうになってしまうわたしがいます。

それを中学1年生のお兄ちゃんが、
こんな立派な作文に仕上げていて、大事なことを思い出させてもらいました。

そして娘のことを、ご近所の方にも知ってもらう努力。

これが足りていないことにも気付かせてもらいました。

こんな素晴らしい作文を書いてくれて、本当にありがとう。

作者の石川叡さんに、心から敬意を表します。

かんもくっ子ポコたん

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