笑っても泣いても、セロトニンアップ⁉
セロトニンについて
セロトニンとは
セロトニンは体内で合成される神経伝達物質の1つで、精神的な安定に関与していることから「しあわせ物質」、「しあわせホルモン」などと呼ばれるようになりました。
セロトニンの体内分布
体内では、その90%が小腸の粘膜に、8%が血小板に、そして残りのわずか2%が脳内の神経に存在しており、そのわずかなセロトニンが精神面に大きな影響を与えていると考えられます。
セロトニンの働き
セロトニンは、活動の交感神経とリラックスの副交感神経という二種類の自律神経の調節に深く関与しており、主な働きは以下の通りです。
- 起きている時にスッキリした意識にさせる
- 朝起きる時、体を活動する状態にさせる
- 痛みの感覚を抑制させる
- 抗重力筋*に働きかける
*抗重力筋は重力に対して姿勢を保つために働くまぶたや首や背中などの筋肉のこと
セロトニンが不足すると
- 寝起きが悪くなる
- 些細なことで痛みを感じやすくなる
- 背中が丸まったり、どんよりとした表情になる
セロトニンが不足する原因の多くはストレス
ストレスがかかると、わたしたちの身体はそのストレスと戦うべく、副腎皮質からストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールが分泌されます。
コルチゾールは、一時的に身体を「戦闘モード」に切り替え、ブーストをかけるようにしてその場を乗り切るように働きます。
‣コルチゾールの働き
・肝臓で糖をつくり出す
・脂肪分解
・免疫抑制、抗炎症作用
・筋肉でのタンパク質代謝
問題なのは、このコルチゾールが慢性的に分泌されている状態です。
慢性的なストレスで、コルチゾールが分泌され続けるような状況下では、セロトニンが分泌されにくくなり、この慢性的なセロトニン不足が抑うつ状態を招きうる、と言われています。
実際、うつ病の患者さんでは、セロトニンが不足し、コルチゾールが過剰である、と言われています。
どっちが先?セロトニン不足と曇った表情
わたしたちは気分が沈むと、うつむきがちになり、表情も曇ってしまいます。
笑うことも少なくなってしまいがちです。
ではこの沈んだ気分からくる表情の曇りは、全てセロトニン不足から来るかというとそうではないと思います。
慢性的にセロトニン不足になる前段階として捉えると、セロトニンの慢性不足に陥る前に、まだ自分でコントロールできる範疇にいる、と捉えることができます。
上の子の国語の教科書におもしろい記事がありました。
「笑うから楽しい」という題名です。
人はみな、楽しいから笑います。
おもしろいから笑います。
その結果、気分がスッキリと晴れますよね。
一方で日本には『笑う門には福来る』ということわざや、『笑いヨガ』なるものがあって、笑うということに大きな効果があるとされ、意識的に笑う事に対する良い効果が期待されています。
では笑う、というのはどういった生理的変化をもたらすのか、を考えてみます。
その国語の教科書にも載っていますが、
『口角を上げて笑うと酸素を取り込みやすくなり、脳の温度が下がり、気分が良くなる』とあります。
ではその温度と感情の関係を見てみましょう。
気温が感情を左右する
暑さとイライラの関係
暑さと気分の研究において、気温が高くなると、攻撃的になるというものがあります。
また、日照時間が長くなると、楽観的になり、不安が下がるという研究もあります。
さらに気温が高くなると、落ち着いて熟慮することできなくなり、短絡的な思考と行動をしやすくなるという研究もあります。
ゆっくりじっくり考えることが面倒になってしまうのです。
暑い時には、
身体は体温を下げることに力を使っていますので、脳の働きは低下し、冷静に考えたり状況を判断することや、相手の気持ちを考えることがしにくい状態となって、些細なことでイライラしたり、腰を据えてじっくり取り組むことなどができにくくなります。
また、怒りや恐怖、不安などを感じる時、人間の身体は一時的に体温を上昇させ、交感神経にブーストをかけるように「戦闘モード」になります。
怒りが高まることを、頭に血が上る、カーっとなる、という表現をしますよね。
このような状態では、先ほど出てきましたコルチゾールの分泌が高まり、セロトニンの分泌が抑えられてしまう、と考えることができます。
一方、意識的に感情をコントロールすることを「クールダウンする」や、「頭を冷やす」という風に言いますよね。
これこそまさに、脳の温度を下げることで、気分転換に外気に触れたり、気持ちを落ち着かせることを指しますが、実は笑うということでも脳の温度を下げ、気持ちを解きほぐすことができる、と国語の教科書の内容を裏付けることになります。
笑うと脳の温度を下げることができる
口角を上げて笑う事で、鼻腔が広がり取り込む空気が増えるため、脳の温度を下げることができる、つまりイライラしやすい状況から抜け出すための足掛かりとなる、というわけです。
また、人の笑った顔というのは、周囲にいる人たちにとっても、視覚から伝染するリラックス効果があるとされていて、場の空気を和ませる力があります。
人のイライラも伝染するけれど、人の笑顔も伝染するんですね。
意識的に笑って心を軽く
このように、楽しくなくても意識的に笑顔になることで、生理学的に見ても感情をコントロールすることができるなんて、驚きですし、やってみる価値が十分ありそうですね!
そうすると結果的に、慢性セロトニン不足から来る、抗重力筋低下による表情の曇りや姿勢の悪さから脱却することができ、良い循環に持ち込むことができる、と言えます。
ちょっと心が疲れているなと思ったときは、トイレなどでこっそり笑顔になってみるといいかもしれませんね。
泣くとセロトニンが増加?
笑うと間接的にセロトニンが増加することを前述しましたが、ここでは笑う事とは真逆の「泣く」ことでもセロトニンが増える、という以外な関係をご紹介します。
涙を流すとき、身体の中は副交感神経が優位な状態になります。
この交感神経から副交感神経に切り替わるときに、セロトニンの分泌が促される、と言われています。
また、涙に多く含まれる、ミネラル成分の『マンガン』も関係してるようです。
セロトニンとマンガンの関係
マンガンとは
マンガンは多くの動植物の生体内に広く存在しており、酵素の活性化や金属酵素の構成成分として機能しています 。
食事からの摂取では、穀類、種実類などの植物性の食品に多く含まれています。
マンガンの働き
マンガンの主な働きは以下の通りです。
①三大栄養素(炭水化物・タンパク質・脂質)の消化吸収を担う酵素の機能活性化
②血液や細胞を作るのに必要
③じん帯、骨、神経を強化
④下垂体の機能*を高める
このように、栄養素を消化し血液や細胞、骨などを強く維持するために必要な栄養素の1つですが、通常の食生活でマンガンが不足することは、ほとんどないそうです。
逆に、過剰摂取による影響が心配される栄養素となっています。
*下垂体の機能とは様々なホルモンの分泌を調整することですが、その中でも副腎皮質刺激ホルモンに着目します。この副腎皮質刺激ホルモンは、度々登場するコルチゾールやその他のホルモンをつくるように副腎を刺激するホルモンです。
(下垂体について詳しくはMSDマニュアル家庭版をご覧ください)
マンガンの過剰摂取による影響
以下はマンガンの過剰症として報告されているものの例です。
・中枢神経の異常
・過敏症、暴力行為、幻覚・活動障害、統合性運動失調
・パーキンソン病様症状・生殖系や免疫系の機能不全
・腎炎・精巣障害
・肝障害
・脳障害
・精神病
器官への影響とともに、精神的な影響も報告されています。
先ほど登場しましたが、マンガンには下垂体の機能を高める作用があり、その下垂体の機能の中にはコルチゾールの分泌を高めるというのがありました。
コルチゾールの分泌が高まると、間接的にセロトニンの分泌は低下し、イライラしやすくなったり気分が憂いやすくなる、と言うことができます。
泣くことは過剰なマンガンを外に出すこと
普段の食生活で不足することはあまりなく、むしろ溜まりやすいマンガンを意図的に外に出す方法の一つが「涙を流す」ということになるんですね。
思いっきり泣いたら、なんだか気分がスッキリした、という経験がおありの方も多いと思います。
まさに、涙を流して過剰なマンガンを外に出し、副交感神経に切り替えたことで、間接的にセロトニンの分泌が増え、気分が安定した、ということです。
笑うことも億劫なほどに、心が疲れてしまったときは、
思いっきり涙を流してストレスもマンガンも外に出す、これも効果的なんですね。
まとめ
笑うことも、涙を流すことも、
どちらもセロトニンの分泌を高めて心を落ち着かせるなんて意外でした。
大人になると、自分の感情を素直に出せる場所が少なくなってしまうような気がします。
社会生活を営む上では、周囲の環境に合わせた振る舞いが求められ、もちろんそれは大切なことです。
ですが、時には自分の感情をまっすぐに受け止めて、素直に外に出すことを意識的にすることで、自分のバランスを保つことも、同じくらい大切なことなんだと改めて思いました。
まだまだコロナ禍、窮屈な気持ちを抱えながらの生活にはなりますが、
映画を見て思いっきり泣く、お笑い番組を見て思いっきり笑う、などは自宅で手軽にできるセロトニンアップ法です。
こんな時だからこそ、笑って泣いて、表情豊かに過ごしたいですね。